■個別労使紛争あっせん制度とは |
解雇、残業代の不払、セクシャルハラスメントなど、経営者と労働者との紛争は増加する一方です。厚生労働省の集計によりますと平成16年度に全国の総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の個別労働紛争に係る相談件数は、16万件を超えています。以前は、経営者と労働組合との対立という構造であったものが、労働組合の加入率の低下とともに経営者と個々の労働者との対立といった状況に変化してきています。
この個別の労使紛争を解決するために、平成13年10月1日に「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が施行されました。これは、経営者と個々の労働者との紛争を早期に、自主的に解決することを目的としています。なかでも、紛争調整委員会によるあっせん制度では、あっせん委員が、第三者の立場で紛争当事者双方の主張を確認し、あっせん案(和解案)の提示をおこない、紛争の円満な解決を図るものです。
そして、平成15年4月1日より社会保険労務士法が改正され、社会保険労務士がこの紛争調整委員会のあっせん制度において、事業主、または労働者の代理人として業務をおこなうことができるようになりました。
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■ あっせん代理の業務 |
個別労働紛争の具体的な内容に関して「あっせん代理人」に委任した場合、当事者を代理して次の業務を行います。
(1)書類等の作成の事務及び提出代行事務
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個別労働紛争解決促進法に基づくあっせん申請書の作成及び企画室職員等から提出を求められた書類の作成。 |
(2)事務代理
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あっせん申請、届出。 |
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当該申請等に係る都道府県労働局長の調査・処分に関し、当該局長に対してする 主張・陳述について代理する。 |
(3)あっせん代理
(都道府県労働局長が紛争調整委員会にあっせんをした後から あっせんが終了するまでの間)
◇ |
あっせん代理人として、紛争当事者の委任の範囲で、紛争当事者に代わって次のことを行います。 |
@あっせん申請書の取り下げ
Aあっせん期日における補佐人又は代理人許可申請書の提出
Bあっせん期日における意見陳述
Cあっせん案の提示を求めること又はあっせん案の受諾等
*個別労働紛争の具体的な内容 |
1. |
解雇、退職勧奨、出向・配置転換、労働条件の不利益変更等の労働条件に関する紛争 |
2. |
セクシャルハラスメント、事業主によるいじめ、嫌がらせに関する紛争 |
3. |
その他労働問題に関するあらゆる分野の紛争 |
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■ あっせん制度を利用するメリット・デメリット |
*メリット |
@裁判手続きより迅速に結論がでる。
Aあっせん制度を利用する費用は無料。(代理人に委任する場合は別途必要)
B手続きが裁判より簡素化されている。
Cあっせんの場は、裁判とは異なり非公開で、プライバシーが保護されいる。
Dあっせん案に合意すれば、民法上の和解契約の効力を持つ。
E裁判のように「対決」ではなく、あくまでも*紛争調整委員が間に入った話し合いによる「和解」である。
*紛争調整委員会の委員は、弁護士、大学教授等労働問題の専門家である学識経験者により構成されている。 |
*デメリット |
@あっせん及びあっせん案に応ずるか否か自由である。
A和解案の強制力がない。
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■ あっせん手続きの流れ |
最寄の総合労働相談コーナーに、あっせん申請書の提出 |
1. |
都道府県労働局長が、紛争調整委員会へあっせんを委任 |
2. |
紛争調整委員会が指名したあっせん委員があっせん期日の決定及び紛争当事者への期日の通知 |
3. |
あっせんの実施 |
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紛争当事者の主張の確認、必要に応じ参考人からの事情聴取
紛争当事者間の調整、話合いの促進
紛争当事者双方が求めた場合には両者が採るべき具体的なあっせん案の提示等 |
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■ あっせん事例 |
申請人等の区分
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退職金に係る事案(事業主・労働者双方からの申請) |
事案の概要 |
事業主は、労働者AとBの退職に際し、退職金制度がないことを踏まえ、退職金の支給を口頭で約束し、支払交渉を行ったが、度重なる交渉で感情的
な対立も激しくなり、金額の隔たりも大きく、当事者同士の話合いが不可能な状況になり、事業主及び労働者があっせん申請を行った。
あっせんの結果、Aは260万円、Bは450万円支払うことで合意が成立した。
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紛争当事者のコメント |
(事業主)労働者の業務成績に対してどのくらいの慰労金を払ってよいか見当がつかない上、労働者との度重なる交渉で、仕事も手につかないほど、精神的に疲労していた。公正中立な立場で、迅速に話合いをつけてくれ、仕事にも集中できるようになって感謝している。
(労働者)話合いがつかず、慰労金がちゃんと支払われるか心配だったが、納得できる金額で話合いがつき、感謝している。
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申請人等の区分
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セクシュアルハラスメントに係る事案(労働者からの申請) |
事案の概要 |
申請人は、事業主からの電話やメール、食事やデートの誘い等、また言葉によるセクハラにより拒食症になった。個人的なつきあいを断った時点から
勤務体制や言葉での嫌がらせが続き、身体的、精神的にも追い込まれ辞めざるを得なくなり、退職した。そのため、精神的な損害補償として6ヶ月分の給料に相
当する補償金の支払を求めたが応じないため、あっせん申請を行った。
あっせん委員が調整した結果、要求どおり支払うことで合意が成立した。
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紛争当事者のコメント |
(労働者)この制度を利用しなければ、泣き寝入りで終わっていたかもしれない。利用してよかった。
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申請人等の区分 |
労働者派遣に係る事案(労働者からの申請) |
事案の概要 |
申請人は派遣会社と1年間の有期契約を締結していたが、派遣先の都合により10ヶ月間で派遣契約が打ち切りとなり、その後派遣会社は、別の派遣
先を紹介することなく放置し、1年の契約期間到来とともに雇用期間満了による退職扱いとされた。派遣契約の終了後、放置された期間について、派遣会社に補
償として2ヶ月分賃金の支払を求めてあっせん申請を行った。
あっせん委員により派遣契約の打切りがあったとしても、雇用期間を一方的に短縮できないこと等を踏まえ両者の歩み寄りを促したところ、派遣会社は申請人に18万円の解決金を支払うことで合意が成立した。 |
紛争当事者のコメント |
(労働者)個々の労働者は企業と個別労働関係紛争について交渉しようとしても企業から拒否されるとどうしようもない状況である。そのような中で、今回第三者機関である紛争調整委員会のあっせん委員に企業との話し合いに立ち会って頂き、解決金の支払という合意ができたことに大変感謝している。
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